グローバル化やデータの大容量化に伴い、社内サーバーのクラウド移行を検討している企業は多いでしょう。既存のサーバーの運用コストを削減したい場合にはクラウド化がおすすめです。クラウド化の定義からメリット・デメリットを解説します。
社内サーバーはクラウド化した方がいい?
サーバーをどのような形態で運営していくかは、企業の将来に関わる重要な問題です。サーバー運用の選択肢として、クラウドサービスを利用する方法が挙げられます。
クラウド移行のメリットを知るためにも、まずはクラウド化の定義やクラウド移行が進む背景を確認しましょう。
ファイルサーバーとクラウド化の定義
ファイルサーバーとは、社内ネットワーク上にある業務ファイルの共有や、社員間で必要なデータのやりとりをするために利用されるサーバーです。社内に専用機を設置する社内ファイルサーバーは『オンプレミス型』と呼ばれ、以前はデータ保存・共有を行う場合このタイプが主流でした。
一方クラウド型のサーバーは、インターネット上に仮想のストレージ領域を設置し、ファイルの保存や共有に活用されます。導入費用が安く自社でサーバーを運用する必要がないのが、クラウド型ファイルサーバーの大きな特長です。
従来の社内ファイルサーバーからクラウド環境にサーバーを移行することを「クラウド化」と呼びます。
クラウドに移行する企業が年々増加
近年はサーバー運用にかかる手間の削減や利便性を向上させるなどの目的で、サーバーをクラウド化する企業が増えてきました。
総務省の『通信利用動向調査』によると、令和元年時点で日本企業の72.2%が何らかのクラウドサービスを導入していることがわかっています。さらにそのうち56%がファイル管理やデータ共有のためにクラウド型のファイルサーバーを導入しています。
クラウド化の動向は年々強くなっており、これまでセキュリティ上の不安からクラウドサービスの採用を見送っていた企業の間でも徐々に導入が広がっているようです。
※出典:総務省「令和4年 通信利用動向調査」
社内サーバー運用の問題点
社内サーバーには多くの課題があります。クラウド型と比較するためにも、具体的にどのようなデメリットがあるのか知っておく必要があるでしょう。企業にとって解消したい問題点を三つ紹介します。
維持管理コストがかさむ
社内に物理的なサーバーを置く場合、サーバーマシンやネットワーク機器・コンピューターをサーバーとして運用するためのソフトウェアなどを購入する必要があります。自社で用意するにも外注するにも、相当な初期費用がかかります。
さらに定期的なメンテナンスや機器が故障した場合の交換費用など、維持管理のためのコストも負担しなければなりません。サーバーの規模にもよりますが、特に大企業の場合1000万円を超える維持費がかかるケースも珍しくないようです。
拡張性に乏しく時間も必要
社内サーバーは自社の状況に合わせて柔軟にカスタマイズできる強みはあるものの、新しくサーバーマシンを導入した場合、運用に至るまで半年近くかかる場合もあります。
また運用途中でサーバーのストレージ容量を増加させたり、新しい機能を持たせたりする場合は追加で投資が必要になります。費用だけでなく設定の時間もとられることになるため、拡張が難しい点もデメリットです。
災害や障害時はデータ消失の恐れも
オンプレミス型では社内にサーバーマシンを設置するため、事故や災害などによってマシンが故障するとデータが使えなくなってしまう可能性があります。日常業務が止まってしまうだけでなく、大事なファイルが破損してしまうかもしれません。
非常事態に備えて別のマシンに業務データのバックアップをとっている企業もあります。しかし、災害によって社内のすべての機器が使えなくなった場合はバックアップのデータすらも消失してしまうリスクもあります。
社内サーバーをクラウド化するメリット
社内サーバーが抱える費用問題や拡張の難しさ・災害が起こったときのリスクなどの課題は、クラウド化で解消できる可能性があります。クラウド型ファイルサーバーを導入するメリットを見ていきましょう。
低コストで導入が可能
サーバーマシンやネットワーク機器などの購入が必要なオンプレミス型と違い、クラウド型はインターネット上に仮想のサーバー環境を構築します。ベンダー(提供会社)と利用契約を結ぶだけで使えるので、圧倒的に低コストでの導入が可能です。
インターネット回線さえあれば、特別な工事や設置費用は必要ありません。初期費用が無料のサービスもあるため、企業から無料サービス導入の許可が下りている場合、0円でスタートできる場合もあるでしょう。
利用料は定額制と従量課金制の2タイプがあり、扱うデータ量や社員数などを考慮して選ぶことになります。特に予算に余裕がない企業にとって、初期費用を抑えられるのは大きなメリットです。
『場所』の制約から解放される
クラウド上のストレージを利用していれば、インターネット環境があれば場所を選ばずデータにアクセスできます。スマートフォンやタブレット端末からも利用できるため、営業担当者が出先で必要な資料を端末にダウンロードして確認したり、顧客情報を更新したりするのに役立つでしょう。
同時編集機能の備わっている「同期型」のクラウドストレージであれば、同一のファイルを複数人で共同編集できるため、社員がオフィス以外の場所で働くテレワークにも適しています。働き方の多様化が進むこれからの時代、場所にとらわれず社内データにアクセスできるクラウドサービスのニーズはさらに高まっていくでしょう。
一方で、よりセキュリティが強固なのは「非同期型」のクラウドストレージです。同時編集はできませんが、セキュリティや管理性が高いことがメリットです。
自然災害や緊急事態に強い
オンプレミス型は社内に機器を設置するため、事故や自然災害によって物理的なダメージが加わると保存しているデータも被害を受けてしまいます。
クラウド型のファイルサーバーを利用すれば、物理ダメージからデータを守ることができます。クラウド型ではデータを社外のデータセンターに預けてサービスベンダーに管理してもらう形態のため、障害や自然災害に強いのが特長です。
データセンターは自然災害の起こりにくい場所に設置されていることが多く、ほとんどはあらゆる自然災害を想定して作られた丈夫な設備のため、企業の重要なデータも安心して預けることができます。
社内サーバーのクラウド化によるデメリット
サーバーをクラウド移行することで、社内サーバーのデメリットを解消できます。ただしクラウド型ならではのデメリットもあるため、導入の際はメリットと併せて確認しておく必要があります。
セキュリティリスクを完全に除去できない
インターネット回線を使うクラウドサービスには、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃を受けるリスクがあります。ベンダーが万全の対策をとっていても、開かれたネットワークを利用している以上セキュリティーリスクをゼロにすることはできません。
インターネット回線に障害が発生するとサーバー環境にアクセスできなくなってしまう点も、把握しておくべきポイントです。大規模な回線障害によって必要なファイルにアクセスできなくなり、結果として業務が止まってしまう事態も考えられます。
コア業務に欠かせない重要データだけでも、社内にバックアップをとっておくなどの対策をしておきましょう。
拡張性に優れるがカスタマイズは難しい
社内でサーバーを管理する場合、追加コストをかければ自社のニーズに応じてサーバーマシンやアプリケーションなどを柔軟にカスタマイズできます。
一方クラウド型はベンダーの提供しているストレージ環境をそのままレンタルして使うことになるため、カスタマイズできる範囲は限定されてしまいます。
ただしオプションで機能を追加したり、より大容量のストレージを利用できるプランに切り替えたりすることは可能です。さまざまな法人向けクラウドサーバーが提供されているので、導入前に自社に必要な機能を洗い出し、ビジネス環境にマッチしたサービスを選ぶようにしましょう。
まとめ
社内サーバーの問題点と、サーバー環境をクラウド化するメリットやデメリットを解説しました。総務省の調査からもわかるように、業界・業種に関わらずすでに多くの企業がクラウド型のサーバーを利用しています。
現在は大企業を中心にクラウド化が進んでいますが、初期費用を抑えられる上に利便性も高いため、中小企業でもクラウド化するメリットは十分にあります。
自然災害や緊急事態への対応も考えると、社内サーバーよりもクラウドサービスを利用する方が安心できるでしょう。働き方改革や業務効率化が進む現代において、クラウド移行の必要性はさらに高まっていくと考えられます。