クラウドストレージの基本知識からファイル共有ソフト・ファイルサーバーとの違い、企業で導入する際の活用事例を紹介します。クラウドストレージのメリットや注意点を理解したい人や、自社に導入を検討している人は参考にしましょう。
クラウドストレージとは
大容量データの取り扱いやリモートワークが増えてきた現代では、クラウドストレージを導入する企業が増えてきました。まずはクラウドストレージとは何か、概要を理解しておきましょう。
クラウド上でファイル共有等が可能なサービス
『クラウドストレージ』とは、インターネット上に仮想のストレージ(保存場所)を用意し、インターネット回線さえあればどこからでも自由にファイルの保存や共有ができるようにしたサービスです。
オンラインストレージとも呼ばれ、その利便性から多くの企業に導入されはじめています。
そもそもクラウドとはインターネットを通じて必要なタイミングで必要な分のサービスを利用できる環境のことをいい、ユーザーが必要なソフトウェアを自分のパソコンにインストールすることなくネットワーク経由で利用できるのが特徴です。
現在はクラウドを通じてさまざまなサービスが提供されており、クラウドストレージもその一つとなっています。
ファイル共有ソフトとの違い
インターネット経由で他者とファイルを共有するために、専用のファイル共有ソフトが使われる場合もあります。ファイル共有ソフトを使って他者とファイルのシェアを行う場合、各々のユーザーがパソコンに専用ソフトをインストールしたり、Webサービスに登録する必要があります。
共有したファイルの共同編集もできない点も、クラウドストレージとの大きな違いです。組織での共有に利用する場合は、共同編集ができるクラウドストレージの方が有用でしょう。
ファイル共有ソフトは不特定多数と同一ファイルを共有したい場合にのみ利用できます。不特定多数と共有ができる性質上、違法なファイルの送受信・ウイルス感染などの問題があるため、セキュリティの観点からも法人利用には向きません。
クラウドストレージの普及が進む理由
総務省の調査によると、何らかのクラウドサービスを利用している企業は全体の7割にあたり、そのうち具体的に使っているサービスは『ファイル保管・データ共有』がもっとも多く64.1%となっています。企業全体の約72%がクラウドストレージやそれに類するサービスを活用しているのが現状です。
クラウドストレージを導入する理由として、多くの企業が業務ファイルなどの無形資産やそれを保守するシステムを社内に保有しなくてもよいことを挙げています。社内でファイルストレージを構築・運用するよりもコストがかからず、安定した運用ができる点が普及している大きな理由です。
※出典:総務省「令和4年 通信利用動向調査」
法人で利用する場合の活用例
クラウドストレージを導入すると、実際の業務でどのように活用できるのでしょうか。クラウドストレージを法人利用する場合の、具体的な活用例をいくつか紹介します。
複数人で同時に編集、作業をする
企業がクラウドストレージを導入すると、同一の業務ファイルを複数人で同時に編集・作業するのに活用できます。ローカル環境でシェアしていたファイルをクラウドに移行し、WordやExcelなどのビジネスデータをチームのメンバーが同時編集することで作業効率がアップします。
また、企業によってはクライアントごとにフォルダーを作り、そこでデータのやり取りをしているケースもあるでしょう。これまで電子メールに添付していたデータを該当フォルダーにアップするだけでよいため、自社だけでなくクライアントの業務効率も改善できる可能性があります。
ただし、同時編集が可能な同期型はフォルダ単位でファイルのデータがPC側に残り、同期時のネットワーク負荷も高くなります。それに比べ、非同期型でかつ暗号化されたキャッシュデータしか残らないサービスでは、ネットワーク負荷が抑えられるだけでなく、セキュリティ的にも安心です。
カタログや動画などの大容量ファイルを扱う
法人向けのクラウドストレージサービスは、1TB以上の大容量を保存できるものや容量無制限のものも珍しくありません。大容量を扱えるサービスは、企業のカタログや動画といった重いファイルのやり取りに適しています。
自社のサーバー内でデータ管理をする場合と違い、ストレージの容量を気にすることなくファイル共有環境を構築できるのは大きなメリットといえるでしょう。特に日常的に大量の画像や動画を取り扱う必要のある場合に役立ちます。
大容量データを送受信する時間と手間を削減できるため、業務効率が向上します。
災害対策としてのクラウドバックアップ
災害対策として、クラウドストレージに重要なデータのバックアップを取っておく企業も多くなっています。ローカル環境にデータを保存している場合、ハードウェアのトラブルによって大切なデータが消えてしまうリスクが常にあります。
経年劣化によって故障したり、落雷などの天災の被害に遭ったりする可能性もあるでしょう。使用していたソフトウェアがクラッシュして、未保存のデータが消えてしまうケースも珍しくありません。
クラウドストレージの中にはローカルデータの自動バックアップをとってくれるものもあるため、作業中のデータにトラブルが起こってもクラウドからすぐに復元できます。
働き方改革の実現
政府が推奨している働き方改革の実現にも、クラウドストレージが役立ちます。インターネット環境があればどこからでも必要なファイルにアクセスできるため、近年導入事例が増えているテレワークや在宅勤務のために導入する企業も増えてきました。
外回りの営業担当者が出先から顧客データを閲覧・編集したり、ストレージ内にある資料をパソコンで表示させながらプレゼンしたりするというった使い方も考えられます。担当者が常に最新の情報を扱えるようになるため、仕事の生産性向上につながるでしょう。
ファイルサーバーと比較したときのメリット
データ管理システムとして、ファイルサーバーを取り入れている企業も多くあります。
ファイルサーバーとは、企業の業務用ファイルを管理する役割を持つサーバーをのことです。ゼロからサーバーを構築するのではなく、特定のパソコンに専用ソフトウェアをインストールしてファイル管理用マシンとして使っている場合も多いでしょう。
クラウドストレージとファイルサーバーと比較したとき、クラウドストレージにはどのようなメリットがあるのでしょうか。具体的に解説します。
コスト削減
自社の業務に必要なデータを管理するためにファイルサーバーを構築することも可能ですが、相応のコストがかかる上に専門の管理者が必要になります。保存できるデータ容量を大きくすればそれだけ費用が膨らむため、コストパフォーマンスが必ずプラスになるとは限りません。
一方、クラウドストレージの場合は初期費用がかからないサービスが多く、無料で使えるものもあります。個人で利用する分には無料プランで問題ないでしょう。
法人利用の有料サービスにも月額1万円程度で容量が無制限に使えるものがあるので、ファイル管理のコストを大幅に削減できます。
運用保守の負担が少ない
保守や運用の負担が少ない点も、クラウドストレージの魅力です。自社でファイルサーバーを運用する場合、定期的な保守点検や日々のサーバー運用を自社で行わなければなりません。
専任の担当者が必要になることも多く、専門知識のある人材がいなければ新たに採用する必要が出てくるでしょう。
クラウドストレージの場合、クラウド環境を構築しているサーバーシステムの運用・保守はベンダー側で行います。自社でメンテナンスをしなくても常に最新の状態で使うことができ、管理にかける時間が不要になります。
障害が起こったときもほとんどの場合ベンダーが対応してくれるので、自社に専門知識を持った人材がいなくても問題なく運用が可能です。
サービスの選定は慎重に
クラウドストレージを導入する際、どのような基準でサービスを選べばよいのでしょうか。自社に合ったクラウドストレージの選び方の基本を解説します。
企業によって細かい選定ポイントは違ってきますが、基本を押さえておけば選定しやすくなるでしょう。
機能、オプションを吟味する
クラウドストレージは導入後のカスタマイズが難しいため、事前に自社のニーズにマッチした機能が搭載されているか、オプションによって必要な機能が実装できるかを確認することが重要です。
パッケージ化されたサービスを購入する形式のものが多いため、データ容量や料金だけに注目して導入してしまうと、現場でうまく使いこなせない状況に陥る可能性があります。
具体的にどういう機能が必要なのかを洗い出し、長期的な視点で自社の業務環境に合ったサービスを選択するようにしましょう。セキュリティ対策も企業にとって重要になるため、ユーザー認証やデータ暗号化など情報漏えいを防げる仕様になっているかも確認しておく必要があります。
プランは企業規模に合っているか
クラウドストレージの料金プランは、保存できる容量によって費用が変わってきます。利用するユーザー数も多ければ多いほど月額(または年額)費用が高くなる傾向にあるため、自社の事業規模に合ったプラン選択が必要です。
実際に扱うデータ容量や人数を大きく超えた高いプランを選んでしまうと、無駄なコストが発生していまいます。
また、今現在のビジネス規模にマッチしていたとしても、将来的に従業員が増えて現状のプランでは満足に運用できなくなる可能性もあります。利用可能なユーザー数に問題はないか、必要に応じてユーザー数や容量を柔軟に変えられるサービスかをチェックしておきましょう。
安全に運用するための主な対策
顧客や自社の貴重なデータ扱うクラウドストレージは、安全に運用していく必要があります。そのために必要な対策を二つ紹介しますので、しっかりチェックしておきましょう。
不正アクセス対策
企業がクラウドストレージを運用する上で、不正アクセス対策は必須です。インターネット環境さえあれば場所を選ばずアクセスできるため、社外から第三者が不正にアクセスを試みたり、本来は閲覧権限のない社員が機密情報の含まれたデータにアクセスしたりする可能性はゼロではありません。
社外からのアクセスに対しては、IPアドレス制限を行って特定のデバイス以外からの通信を遮断する・デバイスの認証を行うといった対策が役立ちます。
内部不正を防ぐためには、重要なファイルに閲覧権限を持たないユーザーがアクセスできないようにするなど細かな権限の設定が有効です。
シャドーIT対策
シャドーITとは、社員や業務部門が企業側の承諾を得ないままITツールやクラウドサービスを業務に使ってしまうことをいいます。クラウドストレージの場合、社員や特定部門が独自に無料のストレージを業務データの保存に活用しているケースが考えられるでしょう。
無料で使えるクラウドストレージはセキュリティに問題があることも少なくありません。企業側が把握しないうちに重要なデータが社外に流出したり、パソコンがマルウェアに感染してしまったりする可能性があるのです。
社員が仕事の生産性向上のために、自分の使いやすいITツールやクラウドサービスを使いたいと考えることは少なくありません。全社的にガイドラインを定めるなどして社員にシャドーITのリスクを周知し、社員の意見を聞いた上で業務に利用できるサービスを限定するといった対策が有効です。
まとめ
クラウドストレージの基本知識と導入メリット、法人が利用する場合の活用事例を紹介しました。ローカル環境でファイルサーバーを構築するよりもコストが安く運用保守の負担が少ないため、業界・業種を問わず数多くの企業がクラウドストレージを導入し始めています。
業務効率を上げるために有用なサービスですが、導入にあたっては不正アクセス対策やシャドーIT対策を徹底することが重要です。必要なリスク対策をした上で、自社のビジネス環境にマッチしたサービスを選択するようにしましょう。