近年、テレワークを導入する企業が増えている一方で、社員の仕事への意欲や評価制度などに関して多くの問題・課題が浮き彫りになっています。テレワークに起こりがちな問題と、その解決に有効なマネジメント手法を解説します。
テレワークは日本の働き方と合わない?
最近では業界・業種にとわられず、テレワークを導入する企業が増えています。テレワークによって業務効率の向上に成功した企業がある一方で、社員の仕事へのモチベーションが低下してしまったり、導入こそしたものの、うまくいかずにオフィス勤務に戻してしまったりした企業もあります。
経営者によっては「テレワークという働き方自体が日本人に合っていないのではないか?」と感じることもあるようです。確かに欧米に比べると、日本は以下の点でテレワークを導入しづらい状況にあることは確かでしょう。
仕事に必要なものがオフィスにある
日本の場合、業務に必要な設備や資料などが会社にあり、テレワークを導入しても定期的に出社しなければならないことが多いです。
事実、国土交通省が2019年10月から20年3月にかけて実施した「テレワーク人口実態調査」によると、新型コロナウイルス対策としてテレワークに従事した4万人のうち、約27%が「会社でなければ閲覧・参照できない資料やデータがあった」ことをテレワークの問題点として挙げています。
さらに約10%が「同僚や上司との連絡・意思疎通に苦労した」と回答しており、約7%が「自宅で仕事に専念できる環境がなく、仕事に集中できなかった」と答えています。現実にはテレワークをスムーズに導入できる状況にない企業も多い状況がうかがえます。
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職務範囲が不明瞭な企業が多い
さらに日本では、一人ひとりの社員の職務範囲が必ずしも明らかではないことが多く、その都度、関係者で話し合いをして具体的な業務を各社員にアサインする場合も少なくありません。そのため、上司や同僚と密な連絡を取りづらいテレワークでは、スムーズな業務の遂行ができない企業もあるようです。
特に日頃の雑談や、カジュアルなコミュニケーションによって職務範囲を決めている場合もあるため、意思疎通の手段がビジネスチャットやWeb会議ツールなどに限られるテレワークは、企業文化に合わないと感じる経営者もいるかもしれません。
テレワークに求められるマネジメント
このように、日本ではテレワークのスムーズな導入には多くの障害がありますが、適切なマネジメントによってオフィス環境での業務以上に生産性を上げている企業も少なくありません。
テレワークで結果を出している企業は、以下のように柔軟な評価制度と社員の仕事への満足度を上げる工夫をしています。詳しく見ていきましょう。
公平で柔軟な評価制度を取り入れる
「テレワークだと部下がしっかりと働いているのか不安だ」と感じる管理職は多いです。実際、テレワークは社員の実際の働きぶりを確認できる環境ではないため、頻繁に報告を要求するなど過度に干渉してしまい、逆に社員の生産性を下げてしまう場合もあります。
加えて、仕事の過程が見えづらいため、行き過ぎた成果主義に陥ってしまう管理職が増えているケースも目立つとされます。
社員の自己管理能力を高め、自律的に業務にあたる姿勢を醸成するには、成果に直接的にはつながらない仕事も正当に評価する必要があります。成果一辺倒ではない、公平で柔軟な評価制度を取り入れることが重要です。
組織力を高めるコミュニケーションの促進
社員同士のコミュニケーションが不足しがちなテレワーク環境では、管理職が率先してチャット内での会話や、Web会議ツールなどを活用して気軽に話ができる環境を整える必要もあります。
特に適度な雑談はテレワーク中の社員が感じるストレスや孤独感を緩和し、仕事の生産性を向上させる効果があるので、無駄な時間だと思わずに定期的に社員同士が雑談を交わせる場を提供しましょう。
チャットツールで雑談専用のルームを作ったり、自由な議論を交わせるランチミーティングを設定したりするのも有効です。
社員の健康から情報漏えいまで包括「リスク対策」
テレワークの導入で企業がもっとも留意すべきなのは、情報漏えいなどセキュリティ上のリスク対策です。実際、重要なデータが保存された記録媒体を紛失した事例や、テレワーク用のパソコンがマルウェアに感染してしまった事件が起こっています。
業務情報の取り扱いに関しては、総務省の『テレワークセキュリティガイドライン』を参考にしっかりとルールを決めておき、社員に徹底順守させましょう。
また、社員の健康にも注意を向けなければいけません。長時間のパソコン操作は心身に悪影響を及ぼす可能性が指摘されているので、こちらも厚生労働省のガイドラインなどを参考にして、社員の健康に配慮したテレワーク環境を整備する必要があります。
安心して働けて成果を出せる環境を整える
社員が安心して働けるための環境づくりもテレワークでは重要です。いろいろな施策が考えられますが、以下のポイントは必ず押さえておきましょう。
テレワーク用マニュアルを作成、周知
テレワークの導入にあたっては、しっかりと上述のセキュリティ対策を含む業務マニュアルを作成し、各社員に配布して内容を順守させる必要があります。
勤務形態はオフィスで業務を行っていたときと変わらない企業が多いですが、社員の休憩時間の取り扱いや休日の申請などは、テレワークで特別な対応が求められるでしょう。リモート環境でも手軽に勤怠管理をするために、専用のツールを導入すると便利です。
密な連携を行う仕組みづくりにツール活用
社員同士の情報共有や、密な連携を行うための仕組みづくりにはツールの活用が欠かせません。日常的な連絡に使うビジネスチャットツールはもちろん、他の社員の業務進捗状況や、割り当てられたタスクの納期、全体のスケジュールなどが一目で分かる業務管理ソフトの導入をおすすめします。
管理ソフトを導入すれば、他者の状況がリアルタイムに更新されるので、管理職の人も部下の仕事のスピードや納期の遅れなどを把握でき、問題が起こる前に余裕を持って対応ができます。
Web会議ファシリテーションスキル
Web会議はできるだけ参加者全員に発言の機会を与え、意見を出しやすい環境を整える必要があります。
そのためには進行役であるファシリテーターの存在が必要です。ファシリテーターは会議の仕切りと同時に、会議全体の流れをつかんで全体的かつ客観的な視点から論点を整理して、皆が納得できる結論に至るように促す役割を持ちます。
日頃から会議のまとめ役をやっていた人でも、Web会議となると勝手が違ってくることも多いので、ファシリテーターを補助する役割の人も決めておくとよいです。
テレワークで注目される評価手法
テレワークの導入にあたって、再び注目されるようになったマネジメント手法があります。ここでは、テレワークで社員の生産性を上げるために役立つ手法として2つ紹介しておきます。
目標を設定し達成度を測定「MBO(目標管理制度)」
「MBO(Management by Objectives、目標管理制度)」とは、個人やチームで一定期間内の目標設定を行い、その達成度合いによってフィードバックや評価をする仕組みをいいます。
元々、経営学者のピーター・F・ドラッカーが提唱した古典的な手法ですが、チーム単位で仕事をすることの多いテレワークでは社員の仕事ぶりを適正に評価しやすい仕組みで、全社的に評価方法の統一も図りやすいのでおすすめです。
行動評価とも呼ばれる「バリュー評価」
テレワークでは社員のエンゲージメントを高めるためにバリュー評価を取り入れることも有効でしょう。バリュー評価とは、社員を評価する基準の一つに、会社の掲げる価値観に沿った行動を取っていたかどうかを含める方法です。
テレワークでは上司や同僚と関わる時間が少なくなり、会社に対する愛着も薄くなりがちです。そこで、バリュー評価の導入によって会社の価値観に見合った行動を取りやすくすることで、チーム全体の士気が上がります。定期的にビジネスチャットやビデオミーティング等でコミュニケーションを取ったりして目標の共有や進捗状況の確認をしましょう。
(※エンゲージメントとは、社員が会社に対して自主的に貢献しようとする意欲のこと。忠誠心、愛社精神などと表現されることもある)
社員の満足度を上げるポイント
次に、テレワーク中に社員の仕事への満足度を高める具体的な施策を紹介します。
尚、ここで紹介する施策は総務部門が中心となって制度導入するもので、現場のマネジメントとしては制度の周知や利用浸透を促すとよいでしょう。
新しいスタイルの福利厚生
テレワークの導入に際し、新しいスタイルの福利厚生を取り入れることによって、社員の満足度を高める方法が考えられます。たとえば、社員に海外旅行費用を補助することで海外でのテレワークを推奨した企業や、テレワークの環境を整えることが難しい社員に対して、テレワーク用の社宅を提供した企業などがあります。
こういったテレワークならではのユニークな福利厚生によって、社員がリフレッシュした気持ちで仕事に臨めるようになった例は少なくありません。
自由参加のイベントを開催
テレワーク中の社員のモチベーションを維持するために、自由参加のイベントを開催している企業も多いです。
最近流行しているリモート飲み会やオンラインでのランチ会、企業独自のクラブ活動など、社員が気分転換できる場を提供することで、社員の見識を広めるとともに、日々の仕事への満足度も高められます。
迷いや悩みを抱えがちな新入社員への対応
テレワークでは、これまでに経験してこなかった悩みや迷いを感じる社員も出てきます。特に新入社員はその傾向が強いため、ここで具体的な対応策を紹介しておきます。
研修資料や手続き書類はデータで管理
新人が業務開始に必要な研修資料や手続き書類は、テレワーク中でもアクセスのできるオンラインストレージ上で関連資料のフォルダを分かりやすく整理して管理するのがおすすめです。業務に必要な情報にアクセスしやすいと新入社員も仕事を覚えるのが早くなり、結果的に会社全体の生産性が向上します。
メンター制度の導入
新入社員が新しい環境に打ち解けやすいように、気軽に相談できるメンターを設けるのも有効です。年齢や立場が近い人物を相談役とすることで新人も本音を話せるようになり、メンターの方も不安や迷いを解消するための建設的なアドバイスがしやすくなります。特にテレワークでは同僚と顔を合わせる機会が少なくなるため、気軽に相談できるメンターの存在は新入社員にとって大きいでしょう。具体的には、マネジメントはメンターをアサインし、メンターは定期的にチャットツールなどで声をかける、メンターと本人の両方から定期的に1on1等で業務上の課題がないかをヒアリングするなどのコミュニケーション補強が重要です。
経験を通して自信を培う
本来、新入社員は先輩社員から仕事のやり方を教わり、実際にやってみることで学ぶものです。しかし、テレワークでは企業研修もオンラインで行われることが多く、今ひとつ手ごたえを感じられない新入社員は少なくないでしょう。
自ら挑戦して経験を積む人材を育成するためにも、研修以外にも先輩社員が率先して新人に教育する場を設け、具体的に仕事のやり方を示すことが重要です。新人に「自分にもできる」と自信を持たせるために日々の会話の中で、新入社員がこれまでに嬉しかったできごとや悔しかったできごととその理由をつかみ、それをふまえた上で仕事のアサインやフィードバックをするなど、さまざまな工夫をしましょう。
それに加えて、日常的にコミュニケーションが取れるチャットツールやWeb会議ツールなどを活用しつつ、新人が些細なことでも先輩社員に質問できる場を作ることも重要です。
まとめ
テレワークに起こりがちな問題の解決に有効なマネジメント手法を解説しました。テレワークの導入にあたっては、事前に業務マニュアルガイドラインを作成して社員に順守させることと、コミュニケーションを活性化するための仕組みづくりが重要です。
情報共有の基盤となるチャットツールをはじめ、業務管理ソフトやWeb会議ツールは積極的に導入するようにしましょう。テレワークで孤独を感じがちな社員の満足度を高める施策も重要です。自社に適した制度を導入しながら、社員が高いパフォーマンスを発揮できるテレワーク環境を構築しましょう。